Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “迷子の迷子の…”
 


 とんでもないペースで季節が進んでのこと、まだ春の内だのに真夏のような暑さに見舞われたかと思や。そのすぐ翌日には、仕舞い込んだばかりの上着が恋しくなるような、震え上がるよな肌寒さが容赦なく襲って来たりと。相も変わらず、落ち着きのない気候に翻弄されてた初夏、皐月であったれど。それでも一応は暦の通り、六月に突入してから幾日も経たぬうち、割としっかりした前線がお目見えし。それへと合わせて“梅雨入り”が、発表されもして。

 「けど、西日本はいい陽気らしいぜ?」

 本降りの雨になったのは、梅雨入りしたぞって発表があった、その日と次の日の午前だけ。夜通し結構な雨脚じゃああったらしいが、次ん日にはそのまま雨も上がって、今日なんて凄げぇ良い天気だって、

 「神戸のもーりんさんが、アジサイの写メ送ってくれたぞ?」
 「わあvv 凄い良いお天気だ。」

 ぱかりと開かれたはシンプルなデザインの携帯電話。その液晶画面に呼び出された、可憐な紫の瓊花は、確かに青々とした葉の上へくっきりとした陰を落としており。観して観してと横合いから覗き込んだ小さなお友達を、いいお天気なの良いなぁと、さんざん羨ましがらせてる。というのも、こちらはあまり芳しい空模様じゃあない。今もさあさあと、静かにこぬか雨が降っているし、そんなせいでのこと、本当だったら春の小運動会があったのが、朝一番に きっぱり中止と運んでおり。

 『新型インフルへの警戒もあって、すぐにも決まったんだと。』

 秋に催される大掛かりのと違い、小規模の運動会は平日開催のそれだったので。順延なしとの予定に沿って、午前だけの授業があったの消化してから。つまんないのとぶうたれていた瀬那くんを連れて、顔なじみのお兄さんたちのいる大学までを、ちょっと寄り道していた蛭魔さんチのヨウイチ坊や。勝手知ったるでアメフト部の部室へ真っ直ぐ向かえば、渡り廊下のすぐ先、犬走りのポーチへドアを開け放った前へ、どこから拾って来たのか、ビーチ用の簡易テーブルやデッキチェアなぞ並べて、午後の講義がないらしい顔触れが、三々五々集まりの寛いでおいで。そんな間を通り抜け、中へと入ってっての、持参したサンドイッチやおむすびのお弁当を広げていた二人であり。こういう寄り道、もはや恒例なせいだろう、

 「ほれ、コロッケパン食うか?」
 「こっちのフルーツオレ、まだ封切ってねぇから飲め飲め。」
 「一美、DVDのプレイヤーあったろが。」
 「バカっ、ガキに やらしいの観せてどーすんだっ。」
 「違げぇって、ツンさんチの猫の仔 撮ったのがあったろよ。」

 お兄さんたちにもすっかりと子煩悩が増えたもんで。
(笑) 毎日来るわけじゃない方の王子様を囲んで、わいわい言ってる外野はおいといて、

 「順延なしってことは。」
 「ああ、このままおジャンだ。」

 こちらさんはすっかり馴れたもの。白身魚のハンバーガーへ尖った八重歯をあむりと突き立てもって、妖一くんが、不在の総長さんの代理、副長さんこと ツンさんへと事情を説明中。学年ごとの駆けっこと、ちょっとしたお遊戯もどきの、フォークダンスやら組体操やらがあっただけという、至ってコンパクトなものだったらしく。

 「一種の体力測定代わりってのかな。」

 一学期は行事が少ないからって組み込まれただけらしいしなと。金髪頭へ小さな手をやり、かしかしと掻く動作の粗さで、面倒臭いものが中止になって せいせいしたと言いたげな小悪魔坊やだったものの。

 「〜〜〜セナはつまんないです。」

 お連れさんのおチビさんの方はというと、ふわふかな頬をふくりと張っての、口許尖らせ、むいと膨れている様子。相変わらずに仕草も動作も覚束なさそうな、稚い愛らしさに満ち満ちており、それほど運動が得意そうには見えない…にも関わらずのこの態度。何だか意外な態度だよなと、やはり顔見知りなフリル・ド・リザードの皆さんが、小首を傾げていたほどで。確かに、一年生の頃なぞは、駆けっこも鉄棒も苦手だったセナくんだったが、仲良しのヨウイチくんや陸くんから、1つくらいは得意を作れと特訓を付き合わされた成果が現れてか、昨年辺りからは随分と駆けっこが得意になった。同じくらいの背丈の子らの中では、陸くんと並んで いつも一等賞になるほどにもなったので、そういう晴れ舞台になるはずだった運動会が中止になったの、いたくご不満であるらしく。

 「ほれ、秋の大会で頑張れば良いでしょう。」

 怒るな怒るなと、マネージャーのメグさんがドーナツを差し出せば。潤みがちの黒い双眸が、こぬか雨降る窓辺から振り向いて来て。ありまとですと良い子のお礼を言ってから、随分と悩ましげな溜息を“はふぅ”とついたセナくんで。

 「…進さんに一等賞のおリボン見したげるって約束したのに。」

  そうかそれでか、成程なぁ。
  進って、まさか…あの王城の進か?
  おうさ、トランデントタックルの進だ。
  ふえぇ、奴にこんな可愛い弟がいたとはな。
  馬鹿かお前、そんなんじゃねいよ、似てねぇだろが。
  そもそも、弟が“進さん”て呼ぶかよ。
  え? でも?
  ウチのチビと総長みたいなもんだ…って、痛ってぇな、ヨウイチ。
  チビ言うな。/////////
  蹴られてやんの。
(笑)
  だが、向こうも平日で講義があったろに。
  だから“おリボン”なんじゃねぇかよ。
  あ、そっか。駆けっこは見せられずとも…か。

 こんなおチビさんの交友関係へも通じてようとは、一体 どこまで事情通なんだ、あんたらも。
(苦笑) ともあれ、梅雨入りのせいでのじめじめへ、別口のじめじめまでもが加わったものの、

 “…放っておけなかった、か。”

 スリムなカットソーにフレアスカートという、今日はフェミニンな装いのメグさんが、セナくんの柔らかなくせっけを長い指で梳くようにし、よしよしと優しく宥めてやっているのを。こっちはこっちで…それはさりげなくもチラチラと、肩越しなんてな斜
(はす)に眺めやってる金髪坊やの様子こそ。副長のお兄さんには何とも言えぬ擽ったい情景。日頃は乱暴なくらいに勘気の強い彼だのに、小さなお友達が随分としょげていたの、見過ごしておれなんだらしい小悪魔さんの心持ちこそ、可愛いもんだと思えてならず。中にみっちりと生クリームの詰まったドーナツを、まぐもぐと頬張るセナくんのお顔も、何とか晴れて来たかしらと、思われて来たそんな頃合いへ、

 「ふやぁ〜ん。」
 「…今度は誰を連れて来た。」

 いかにも幼い泣き声への父性あふるる反応からか、それとも“ここは保育所か”という突っ込みか。ついのこととてその大きな手をぐぐうと握り締めている副長さんへ。いや、俺らの知ってるおチビはその二人くらいのもんですがと、こちらだって合点がいかないチームメイトらが、どうかお怒りお静め下さいましと、怒れば総長に負けないほどおっかない、副長さんのお怒りの様子へおたおたと慌てかけたほど。そんな騒ぎになった元、不意を突いての乱入にて、か細くも響き渡った泣き声があり。他の面々もあわわとばかり、声が立った戸口の方を振り返ってみたれば、

 「なんだ何だ、皆して そんなまで注目しなくても。」
 「…ルイさん。」

 そりゃあお見事な長身に、チームで作った白いウィンドブレーカがお似合いの。フリル・ド・リザード、新主将、葉柱ルイさん その人じゃあありませんか。何でまた、彼だけちょいと遅れて部室へ姿を現したのかと言えば、ご近所の商店街にあるATMへまで、大会参加費などの振り込みにとお運びだったからで。そして、

 「ヨーイチっ!」
 「お、くうじゃねぇか。」

 先程の泣き声の主が、ひょこりと妙な高さからお顔を現して見せる。雨に濡れないようにとしてのこと、大きなお兄さんがその懐ろに隠しもって連れて来たらしく、

 「やっぱりな、お前んトコのチビさんだったか。」

 どっかでの見覚えはあったが自信がなくて…と続けつつ、屈んでやっての降ろしてやれば。奥向きからどけどけとばかり、他の部員を乗り越え踏み越え、大急ぎで戸口まで出て来た金髪の坊やへ、似たような髪色の小さな坊やが うあぁんと泣き声振り絞ってすがりつく。

 「何でこんなとこにいるかな、お前。七郎兄ちゃんは? マスターは一緒じゃねぇのか?」
 「…ちらない。」

 知ってる人に会えてやっと安心出来てのこと、これでも頑張ってこらえてた泣き声を高めての、おいおいとひどく泣き出したおチビさん。まだ学齢前だろう幼さの、金の髪に白い肌した、妖一くんと面影のそっくりなお子さんであり。

 「…あ、思い出した。
  去年だったか、妖一のお父さんと一緒に此処へ来た、凄んげぇ美人が抱えてた坊主だ。」
 「そうそう、銀が美人なお姉さんと間違えて…。」

 一体どういう遺伝子してやがるという問答になった、妖一坊やのご親戚。父上の弟だか従弟だかにあたるという、やはり金髪で色白だった、そりゃあ麗しい容姿の七郎とかいうお兄さんが、息子ですと抱えていたのがこの坊や。くせっ毛なのだろ、軽やかな綿毛みたいな金髪が、泣いてなくとも潤みの強そうな、赤みのかかった大きな瞳や、仄かに光ってないかと思えるほどの白さの頬へぱさりとかかっていて。どちらかと言えば“クールビューティ”な妖一くんよりも、ふやふやほわほわとした柔らかな愛らしさが、セナくんに近い雰囲気のする、そりゃあ愛らしい、小さな坊や。

 「商店街で人だかりが出来ててな。」

 迷子の坊や、しかも外人さんらしいよと、八百屋や総菜屋のご店主たちが顔を見合わせて困っておいでのところへと、通りかかっただけの葉柱へ、

 『…っ!』

 坊やの方から ぎゅうと掴まって来たもんだから、まずはびっくりさせられたものの。
『お、そういや兄ちゃん、この子といつも買いもんに来てないか?』
『そうだよ。いつも連れてる可愛い子。』
 あれって、こんな子じゃなかったか?と。せめておかみさんが一人でもいれば、違うよもちょっと大きい子だよと見分けもついただろうに、知り合いだろうがと口々に言われてしまったらしく。それに…言われてみれば、確かに妖一くんに似てもいて、知りませんとも言えずの振り切れずでと、

 「…じゃあルイは、俺に似てる子は手当たり次第に連れてくんのかよ。」
 「手当たり次第にってのは何だ。」

 当人同士が妙な剣呑さで向かい合ってる…ちょっと脇では、
「あれって妖一があちこちで生ませた子を、全部引き取るってことか?」
「こらこら、小さい子に聞こえるだろうが。」
 何だか話が妙な方向に発展してもおりますが。
(笑) それはともかく、

 「何でまた、こんな遠いとこにいるんだ、くう。」

 そうそう、そっちが先ですよと、さすがに思い直した妖一くんだったようで。だってこの子は、此処からはちょいと離れた町の子で、うら若き父上とその知人の渋いマスターが、たった二人で切り盛りしている“茶房もののふ”の看板坊や。バスに乗っても乗り換えがいるほど遠いところから、こんな小さい子が一人でなんて来られるはずがないというもの。本人へ訊きつつ、携帯も取り出していて、住所録から手際よく、坊やのお父さんの携帯の番号を呼び出しておれば、

 「…って。くう、あめあめで、くっくでおみじゅぱちゃんていてて。
  したら、ぱぱないないってなって、そいで、そいで〜〜〜〜。」

 話をしていてますます悲しくなったのか。小さな坊やが口許をたわませてしまう。そしてそして、
「判った、泣くな。」
 あああ、何でと訊いた俺が悪うございましたと。さしもの小悪魔坊やも泣く子には勝てぬか、しまった、これは失態だと、白いお顔を引きつらせ、素直に白旗上げて見せれば、


  「…そっか。おニュウのクックで水たまりを踏んでたんだ。」

   …………はい?


 えくうく泣き続ける幼い坊やへ、別な方からのお声がかかり、
「やっと雨が降ったから、このアヒルさんのくっく初めて履いたんでしょ?」
「………うう。(頷)」
 うんと力なく頷いた小さなくうちゃんの、赤いお眸々には妖一くんのお友達のお顔が映ってて。

 「セナも新しい雨靴を下ろした日は水たまりをたくさん踏みたくなるもの。
  くうちゃんも、そやって踏んでたんでしょ?」
 「…うん。」
 「そいでそいで。
  下ばっか見てたんで、パパからうっかり離れても気がつかなかったんだ。」
 「うん。」

 そうなの、パパとはぐれたの〜と。やっと言葉が通じたお兄さんへ、小さなお手々を伸ばして見せて。セナくんがTシャツに重ねて羽織ってた、サッカー地のオーバーブラウスに掴まると、ふにゅうんとお顔を埋めてしまっての、まるでホントの兄弟にでも逢えたみたいな懐きよう。そんな小さな坊やの髪を、こちらさんもまだまだ小さなお手々で“よ〜しよ〜し”と撫でて差し上げ。

 「ダイジョブだからね? ヒル魔くんが、お父さんに電話してくれるから。」
 「…っ。(頷)」
 「パパが来るまでは、お兄ちゃんと遊んでようね。」
 「…、…。(頷、頷)」

 ほんのついさっきまで、自分こそが拗ねていたのにね。ランドセルから小さなお手玉取り出して、ほら持ってみてごらん? すっごいやわやわでしょ?と。サンドビーズの詰まった柔らかなクッションボールを幾つも、ポンポンと宙へと投げ上げての、遊び始めてくれており。
「う〜ん、大したもんだ。」
「あれじゃね? 年が近かったから、さっきの幼児語も通じたとか。」
 あれほどわんわんと泣いてた坊やが、今はすっかり泣きやんでおり。これもどっかから拾って来たソファーに、セナくんと向かい合ってのちんまりと座り込んで、ぽーいと放られるお手玉の軌跡を、仔猫みたいに頭ごと上下させて追っかけている可愛さよ。いかにも幼児の、三頭身にも至らないのじゃあないかという小さな肢体が、なのに一丁前にも正座しており。お手玉が飛び上がるたび、それへ釣られてしまってか、小さなお尻がひょくひょくと浮き上がるのが何とも可愛い。そんな様子を横見に見つつ、携帯へ頬をつけてた妖一くんの方では、

 「…あ。七郎兄ちゃん? ……………っって、判ってるって。
  くうだろ? 此処に居るから安心して。」

 何かしら大声で取り乱しておいでだったらしいのへ、圧しかぶせるよに言い聞かせ、七郎とやらも確か一度来てはいるが、覚えてないかも知れぬし、混乱もしていようからと。この大学までの道程を、一応きちんと説明してあげてから、じゃあ待ってるからと電話を切った周到な小悪魔さん。

 「………。」

 ひとぉーつ、ふたぁーつと、放り投げては受け止めるお手玉遊びに、幼い二人が集中している様へ。おお、よく取った、今度は3つ同時だ、凄い凄いと、沸いてる他の部員の皆様同様、視線を向けての動かなくなった妖一くんだったものの。

 「…いっぺんに全部は無理だ。」
 「なんのこったよ。」

 皆や妖一へと背中を向けての着替えつつ、そんな唐突な言いようを投げて来た葉柱へ。小さな背中はひくりとも動かなかったが、それって何だか…ムキになっての不動にも見える。そして、そんな背中をやはり見もせぬまま、

 「大人の融通に長けてるお前が、
  セナ坊みたいに小さい子の気持ちまでフォロー出来ねぇのは、
  仕方がないって言ってんだよ。」

 日頃の時々、いかにも可愛い子ぶってるのは、あくまでも大人が見て可愛いと思えるだろう態度を装ってるだけ。そういうことへと長けた分だけ、本当に幼くて覚束無い子供の気持ちは、酌み取れなくなって久しい妖一くんであり。そして、そうなってた自分に気づいたらしいのへ、しょうがなかろと言ってくれた葉柱さんであったらしい。練習着用のTシャツから頭を出して、裾やら袖やら整えておれば、

 「そんなもん判ってる。」

 ごすと、腹筋と同じくらいに堅い背中へ小さな拳が当たって…それから。

 「………妖一?」

 その手がなかなか動かない。くすんと微笑った葉柱が、しょうがねぇなと肩越しに相手を見下ろして。

 「おい。」
 「………。」
 「何も今更、小さい子から慕われてぇんじゃなかろうよ。」
 「うっさいなぁ。」
 「だからよ。お前は俺んだけ甘えてりゃいいんだよ。」
 「〜〜〜〜〜な、何言ってるかな、馬鹿ルイっ。//////////」

 こんな開けたところでそんなこと言い出すなんて…と、赤くなるところが、実は純情な小悪魔様で。誰にも気づかれちゃあないとの、それこそ隙をついての大胆さなのか。いやいや、ルイって馬鹿だから、こういう状況だなんて気づいてないに決まってる。

 “…ったくよぉ。////////”

 こやって抜けてっから目が離せねぇんだよな、まったくと。こぬか雨の冷たさでだっても、静められない火照った頬を、ふるると振っての怒った素振り。相変わらず素直じゃないですねと、こちらにも咲いてた紫のアジサイが、くすすと笑うように揺れていた。






  〜どさくさ・どっとはらい〜  09.06.12.


  *何ですか、いよいよの最終回かと思うと、
   ついつい筆も進みづらくなってしまっております。
   反響が薄くての打ち切りらしいとの声もあり、
   世界大会篇へもちゃんとそれなりの展開、考えておいでだったろに、
   編集から急かされての尺を詰めまくってしまったんじゃないか。
   それで、何だか妙に早すぎる展開になっちゃったんじゃないかと。
   そんなご意見を某所で伺って、
   成程なぁ、さすがは血も涙もない点数主義のジャ○プだなぁと
   ますますのこと、やり切れなくなっておりました。

   でもまあ、原作の世界からは随分と早いうちから離れてた当方ですので、
   それへ怒るのは筋違いでしょうかね?
   勿論のこと、まだまだ何かと綴らせていただきますので、
   今後とも どかよろしくですvv

めーるふぉーむvv ぷでぃんvv

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